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#1 クリスマス・イヴ

初音島の桜が、普通の桜になってから3度目のクリスマスがやってきた。

義理の妹である、朝倉音夢。
あいつは今、初音島の外にある養護学校で勉強にいそしんでいる。
いきなり研修医になってサプライズ復帰なんてことはしない。
あの真面目一辺倒の義妹にそんな大胆な真似ができるわけないのだ。

だから、今年のクリスマスも、一人だ。
さすがに年末には帰省するだろうけど、それも年の瀬ギリギリだろう。

でも、別に寂しいとかそんなことはない。
何もしなくたって杉並が(俺を巻き込むように)騒ぎを起こしていることもあるが、
なにより、お節介焼きの白河ことりを初めとした友達みんながサポート部隊を結成し、あれこれと俺の世話を焼いてくれている。
考えてみれば、これほど恵まれた環境はないとも言えるかもしれない。

ずっと付き添ってきた妹が居ない寂しさが、ないわけでもないけど、
俺もいい加減妹離れしないとな。
少なくとも皆の前で、そんな素振りを見せるわけには行かない。

そんなわけで、クリスマスが目前に迫った、前日。
世間で言うところのクリスマス・イヴ。
冴えないテレビを見ながらゴロゴロ過ごしていると……。

ピンポーン。

チャイムが鳴った。
はいはい、今出ますよ。

「朝倉君、ちわっす!」

ことりだった。
あれ、今日来るなんて約束してたっけ……?

「朝倉君、いまお暇ですか?」

「暇と言えば暇だけど……」
「暇と言えば、じゃなくて暇そのもの、ですよね?」

文字通り、心を見透かされた気がする。
他人の心を読み取れなくなっても、ことりは鋭い。

「別に私が鋭いわけじゃないっすよ……
 こんな時間にパジャマのままだったら誰だってそう思います」

「!」
「ま、まぁ、とにかくお暇なら、一緒に出掛けません?」

「そ、そうだな」

迂闊だった。
一人でいるとやっぱりかったるい虫が顔を出してしまう。
とにかく、俺は話の流れでことりと出掛けることになった。

「それで、何処に行くんだ?」
「特に決めているわけではないんですけど……商店街なんてどうでしょうか」

「了解」

商店街なら時間つぶしに困ることはない。
ましてやこの時期だ。
一年で一番華やかなことだろう。
商店街の入り口に差し掛かると、早速声が聞こえてきた。

「よろしくお願いしまーす。美味しいケーキはいかがですかー?」

サンタのカッコをした少女がチラシを配っている。
何処かで会ったような、聴いたことのある声のような気もするが、
気のせいだろう。

「ね、そこのキミ」

「え、俺?」

突然サンタ少女に話しかけられてしまった。
年の頃は、俺と同じくらいだろうか?
日本離れした感じがする顔つきの少女だ。

「そうそう。キミ、ケーキは要らないかな?」

「要らない」
「即答ですか……。キミが要らなくても隣の彼女さんへ、プレゼントとか」

サンタ少女はことりを指差して言う。

「わ、わたしは…」

だがことりが何かを言いかけ、そのまま口をつぐんでしまう。

「あー、プレゼントならもう用意してあるんで。結構です」
「えっ?」

「あ、そうなんだ……。じゃあせめてチラシだけでも」

「あいよ」

チラシを受け取ると、俺達は逃げるようにサンタ少女から離れた。
ああ言うのに絡んだってロクなことはないからな。

「あ、あのっ、朝倉君」

「どうしたことり」
「その、手……」

俺はいつの間にかことりの手を握っていた。
無意識のうちにことりの手を掴んで、サンタ少女から逃げていたのだ。

「あ、ごめん」
「ううん、いいんだけど……」

ことりの顔がほんのりと赤い。
ううむ、柔らかかったな。ことりの手……。

「朝倉君、プレゼント、用意してあるって……?」

「あ、ああ音夢に――」

しまった、つい本当のことを喋ってしまった。
年末に帰ってくる妹にプレゼントを用意してたのは事実だ。

「音夢さんに?」

「い、いや、ことりにも用意してあるんだ」
「えっ?」

すまん、ことり。
これから用意するよ……。

「あ、朝倉せんぱ~~~~~い!」

遠くからわんこの声が聴こえて来る。
天枷美春が遠くから走ってくるのが見えた。
いつもはうるさいだけの美春が、このときは救世主に見えた。

「天枷さん」

「どうしたんだ、美春」
「はぁっ、はぁっ、探しましたよぉ~。朝倉先輩ぃ……」

「探したって、何か用か」
「そうです。用です。それも大変っっな用です。
 何度も電話してるのに、朝倉先輩、ちっとも出てくれないんですもん」

俺は慌てて携帯電話を開く。
美春から何度も着信があった。

「うわ、悪かったな美春」
「いえっ、そんなことはいいんです。こうして朝倉先輩も見つかりましたし」

「それで、何があったんだ?」
「いいですか、驚かないで下さいね?」

「いいから早く言え」

美春は息を整えてから、言った。

「いま、音夢先輩が初音島に向かってるらしいんですよ!」

「!!」
「えっ……?」

携帯電話の着信履歴をさかのぼると、美春で埋め尽くされるさらに前、
妹の、『朝倉音夢』の名前が残っていた。

#2へつづく

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