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#3 祝福の風

あれから――音夢は病院に運ばれた。
絶対安静の昏睡状態にあった。原因は……不明。

その病室の廊下にいま、俺達はいる。
どうしていいか分からない。
それは、ことりも美春も一緒だった。
美春にいたっては今にも大泣きを始めてしまいそうだ。

「お兄ちゃん、ちょっといいかな」

「どうした、さくら」
「…………に行きたい」

えっ?
さくら、今なんて……。

「白河さん、ちょっとお兄ちゃん貸してもらえるかな?」

「芳乃……さん?」

「お兄ちゃんと、行きたいところがあるんだ」

口調は優しいが、さくらの言葉には有無を言わせぬ雰囲気があった。

「悪いな。ことり、美春。ちょっとの間頼むよ」
「……ふぁい」

「おまかせっす」

泣き出しそうな美春と、気丈に振る舞うことり。
感謝してもしきれないな。
俺はさくらと2人、病院を出た。

――あの桜の木を見に行きたい。

さくらは確かにそう言った。

+ + +

風が吹きぬけ、桜が舞う。
狂ったように咲き乱れる魔法の桜。
そう、桜は満開の花を咲かせていた。

勘の鈍い俺でも予想できたことだ。
さくらは当然分かっていたのだろう、特に驚いた様子はない。
少なくとも、顔には出さない。

「お兄ちゃん」

「ん?」
「なんでボクが帰って来たのか、わかる?」

「なんでって……帰省、じゃないのか?」
「それもあるけどね。でも普通、帰省ってもうちょっと後、でしょ?
 ボクと音夢ちゃんがこのタイミングで一緒に帰って来た。
 まるで、何かに引き寄せられるように……」

さくらは乱れ咲く桜に手を伸ばす。
たしかにさくらの言うとおりだ。
音夢にしたって、どうして突然帰って来たんだ。
どうして、さくらと音夢が、同時に……。
そして、この桜が満開に……。

「この桜は……初音島の魔法の桜は……純粋な願いを、具現化するんだ」

「純粋な、願い……」

2年前まで初音島にあった魔法の桜。桜が枯れると同時に、
その桜が叶えてきた純粋な願い――すなわち、魔法の力は消滅した。
いや、したはずだった。

「ボクはね、予感がしたんだよ。初音島で何かが起こるような。
 だから本当は、お兄ちゃん達に会う前にここに来るつもりだった。
 初音島で起こるコトには、どんな形にせよこの桜が関わってくるからね」

「…………」
「にゃはは。
 戻ってきたら既に桜が満開だったなんて。さすがにビックリしたよ」

「さくら、知ってるのならもっとはっきり言ってくれ」
「…………お兄ちゃん、普段は鈍感なのにときどきすっごく鋭くなるよね。
 やっぱりお兄ちゃんにはかなわないよ」

俺はさくらをまっすぐに見つめる。
さくらは俺なんかよりずっと魔法の力が強い。吸い込まれそうになる。
だが、目をそらすわけには行かない。

「お兄ちゃん、パラレルワールドって、わかる?」

「パラレル……? 平行とか、そんな意味だっけ」
「そう。この世界と同じようで同じでない世界。
 たとえば、お兄ちゃんがボクと結ばれたり、猫耳メイドさん達と暮らしたりしてる世界もある、かもしれないってこと。もちろん、今ココに居るボクたちが行くことはできないけどね。決して交わることのない、それが平行世界」

「…………」
「でも、平行世界の『純粋な願い』が別の世界に影響を及ぼすことはあるかもしれない。それが、今なんだと思う」

それは、つまり……。

「はっきり言っちゃうとね、
 お兄ちゃんと音夢ちゃんが結婚しちゃった平行世界があるんだよ」

「なっ……!!」

そんなかったるい世界があるのか。
とてもじゃないが、直視できないだろうな。

「そんなこと、ありえないと思うでしょ? でも本当なんだ。
 そんなものを見せ付けられた人たちの『純粋な願い』が桜に届いたんだ」

「その『純粋な願い』って、もしかして……」
「そうだよ。音夢ちゃんなんて居なくなっちゃえばいいのに、って……」

「誰が、そんなこと……」

――さくら?

「違うよ、ボクじゃない。
 元々、今ここにある桜を枯らせたのはボクなんだ。そんなことはしないよ」

「じゃあ、いったい誰が?」

――ことり?

いや、彼女はそんなことを願ったりはしない。
それは俺が良く知っている。
ちがう。
そうじゃない。
そんなはずない。
純粋な願い……音夢が倒れてしまうような願い。
いったい誰が………。

「きっと、そんなありえない結末を見せられた人みんな、だと思う」

「え?」
「そう、みんなの純粋な願いが……」

「……その結果が、この、桜……?」

俺は満開の桜を見上げた。

「でも、もしそうだとしても、その世界の桜がはたらくんじゃないのか?」
「う~ん。それもそうなんだけど……
 なんでだろうね、平行世界のボクが枯らしてしまったのか、
 あるいは他の魔法使いの関与でもあったのかな」

不意に商店街で話しかけられたサンタ少女が俺の頭に蘇ってきた。
何故かは分からない。
まるで悪い夢を見せられているような感覚に陥ってきた。

「とにかく魔法は発動してしまった。ボクにはもう止められない。
 じきに、音夢ちゃんは消える。お兄ちゃんの記憶からも消える」

「…………!」

音夢が消える。俺の記憶からも消える。
それは、さくらにも止められない……。

「お兄ちゃん、もしお兄ちゃんに大事な人が居るなら、そこに行って」

「……え?」

さくらは何かを決意しているようだった。
その目を見て、俺も覚悟を決める。

「なにもかも終わったとき、一人じゃ寂しいでしょ?」

どこか物悲しい、でも笑顔のさくら。
さくらは今、何を思っているんだろう。

「……さくら」
「お兄ちゃん、早く!」

「さくら、ゴメン。あとは頼む!」

俺は走り出した。
もう俺にとって大事だった妹は助からない。
でも、今はもっと大切な人が居る……!

――――。

――。


「あ~あ、お兄ちゃんやっぱりボクを選んでくれなかったね。」

狂ったように咲き乱れる桜がボクの視界から、お兄ちゃんを消し去った。
ボクは首に下げている赤い宝石を取り出す。

「さ、いいかな」


「OK、My Master――」

+ + +

――エピローグ――

初音島の桜が、普通の桜になってから3度目のクリスマスがやってきた。
今年は寂しいなんてことはない。

「朝倉君……」

「ことり」

今年のクリスマスは、一人ではないからだ。
俺にとって大切な人が、一緒にいる。
これからずっと一緒に付き添っていくであろう、大切な人が。

「その、私は嬉しいですけど……朝倉君は、いいの?」

俺は懐からプレゼントを取り出し、ことりに手渡した。
ことりは驚いた顔で俺を見つめる。

「えっ、これ……」

「言ったろ? プレゼント用意してるって」
「でも、朝倉君がそんなかったるいことするなんて」

ことりは笑った。俺も苦笑で返す。

「かったるい……かもしれない。
 でもことりには感謝してるよ。だから、今日くらいは恩返しさせて欲しい」
「……恩返し、ですか」

「それだけじゃないよ。
 ことりが居てくれて分かったんだ。俺は、ことりのことが……」
「朝倉君……!」

――――パタン。

ボクは雨戸を閉めた。
視界が暗闇で覆われる。

「にゃはは、やっぱり見てられないね。
 って、そもそも覗き見なんてするボクが悪いのかもしれないけれど……」

…………。

「これでいいんだ……。
 お兄ちゃんも、初音島のみんなも、永遠に『彼女』のことを忘れられる。
 お兄ちゃんも幸せになれる。
 それが、それが――みんなの本当の願いなら」

「うにゃあ~」

横で小さく鳴くうたまるを抱きながら思う。
再び桜が消えた初音島。
でもそこには、舞い乱れる桜の代わりに祝福の風が舞っていた。

「ダ・カーポ。終わりまで行ったら始まりに戻る。
どこかの世界で、一つの話が終わった。
 そう、お兄ちゃん達にとって『始まり』は今なんだよ――」


ダ・カーポ完結記念SS「2005年のクリスマス」


あとがき

ひとことで言えば「俺が望むダ・カーポ」なわけですが。
思いつきはもちろんギャグ。
それをシリアスにまとめるという馬鹿な作業。

本編最終話放送終了から12時間、書き始めてから3時間で作ったにしては、
我ながら良く出来てるのではないかと(笑)
設定はD.C.S.S第1話と同じ、と言うことでお願いします。
サブタイは、分かる人用(ぉ)

質問感想、誤字脱字指摘、矛盾点等、メールフォームでもコメント欄でも
同盟でも構いませんので、頂戴できれば幸いです。

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コメント

どうも、初めまして。結構前から毎回コッソリ日記見させて頂いている者です。

これが皆の求めてるダ・カーポですね。間違い無いです。
音夢の扱いはこれ位が良いんです。酷くありません(ぉぃ
それでは楽しませて頂いたお礼に誤字指摘を。

「…………お兄ちゃん、普段は鈍感なのにときどきすっごく鋭くなるよね。
 やっぱりお兄ちゃんには『叶わないよ』」
は、『敵わないよ』だと思います。

それではありがとうございましたー。

投稿: ラセ | 2005.12.27 04:31

>ラセ様
はじめまして。鏑木にございます。
この日記、見てるだけーの人が多いのでコメント頂けまして光栄の極みです。
音だか夢だかの人は初め、直球でヌッ殺すつもりでしたから、
これでも抑えました(笑)
誤字指摘、ありがとうございます。
急ごしらえの作品ということで、ご容赦を。
後ほど修正しますー。

投稿: 鏑木 | 2005.12.27 08:28

遅くなりましたが読ませていただきました!
うん、やっぱり純一はことりと結ばれるべきですよ、ええ。
最近、アニメのレビュー記事かいてて
本当にことりの扱いが酷くて悲しくなってきた今日この頃です・・・。

投稿: 月神恭介 | 2005.12.27 23:39

>月神様
コメントありがとうございます。
月神様のDCSS視聴もだいぶ進んでいるようですが、
あれから先、ことりの扱いが好転することは一切ありませんからッ!


実はこの作品、ことりと結ばれるべき要因は皆無で、
ネムと美春以外、どのキャラでも成立するという素敵仕様(笑)
何故ことりなのか、と問われればそれは俺脳内デフォだから、
という完璧なる理論武装で返します。

投稿: 鏑木 | 2005.12.27 23:50

コメントの返事が俺が書きこんでわずか11分で・・
早いw

ことりと結ばれるのはもう諦めるとしてもですね
ことりばっか扱いひどすぎですぜ・・('A`
ダ・カーポ~サードシーズン~では是非ことりENDに!
(サードシーズンは俺の脳内で今日から放送開始です(ぉぃ)

投稿: 月神恭介 | 2005.12.28 09:37

投稿時間は狙ったわけではないです(笑)
あのエンドはアレはアレでIIにつながる正史になるのでしょう。
別にそれはそれで構わないですし、
ゲーム版ではことり優遇の傾向にありますので満足です。
話がそれてしまいました。
引き続き、感想お待ちしております!>読まれた方

投稿: 鏑木 | 2005.12.29 01:01

始めまして。今更ながら小説を読ませていただきました。
感想
黒歴史(セカンドシーズン)よりこっちの方が断然おもしろかったです。
義妹を(ある意味)噛ませ犬扱いするところがよかったです。

投稿: シール | 2006.04.20 15:45

感想ありがとうございます。

面白いと言っていただき光栄です。義妹(名前はもう忘れました)は噛ませ犬くらいで丁度いいのですええ。ことりこそヒロインの器なりッ!!

投稿: 鏑木 | 2006.04.20 20:06

奴(義妹)ばかり優遇されるのは結構癪にさわりますからね。
あの黒歴史はことりこそメインヒロインと思うのは自分だけじゃないと思われます。

投稿: シール | 2006.04.21 16:03

何度か言ってるんですが、DCと言う作品自体でアレがメインヒロインであることはなんら問題はないと思うのです。
それはオフィシャル設定であり私も認めるところであると。

ただ、白河ことりをあれほどまで噛ませ犬にしただけで黒歴史とするに余りある罪状なのです。
要するにことりは最高であり我らがヒロインなわけです。

投稿: 鏑木 | 2006.04.23 22:50

その事についてはかなり同意します。
皆のアイドルでもあり、皆のヒロインでもある・・

投稿: シール | 2006.04.24 10:37

結局、そこに行き着きますよね。
この話を始めてしまうと取りとめもなくなってしまいますので(ゲームレビュー辺りにも書いてますし)ことり萌え論(論?)に関してはこの辺りでまとめと言うことで…

投稿: 鏑木 | 2006.04.24 23:34

はい、そうですね。

投稿: シール | 2006.04.26 12:31

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